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「行ってきま~す!」
「行ってらっしゃ~い」
二人が緩い挨拶を済ませたところで、理恵は隣の家から出てきた人物を目で捉えた。
「あっ、慎司君おはよ~」
言いながら慎司へと抱き着き、そのまま―――
「チューしよチュー」
「…おはムグッ」
慎司が返した挨拶も聞き終えないまま、理恵は唇を重ねた。
「うにゃ~、慎司君の耳たぶ柔らか~い」
「理恵さん……くすぐったい」
続けて耳たぶを口に含み、舐め回していく。
その光景を見て黙っていない人物が横には居るワケで、
「理恵、いい加減にしなさい」
弟を溺愛する姉―――里美は、理恵の肩を掴んで慎司から引きはがした。
「え~、まだ足りない…」
性懲りもなく慎司へ手を延ばす理恵を、里美は少し厳しい口調で宥める。
「我慢しなさい、私だってしたいけど我慢してるのよ」
「…は~い」
理恵は渋々といった感じで脱力したが、次の瞬間には慎司と手を繋いでいた。
それには里美も注意をせず、自分も反対側の手を握った。
「行きましょうか」
「行こう行こう~」
「……あぁ」
みんなで手を繋いで登校するのも、今となっては日常茶飯事。
同じ高校の生徒が増えてくる通学路までは、この状態を継続する。
他の生徒に見られないようにするのは、二人なりの慎司への配慮だ。
自分達だけしか居ない時は気にすることなくベタつくが、他人が居るときは態度をわきまえる。
二人が第一に考えるのは、愛する慎司の幸せだから―――。
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