第一章

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「行ってきま~す!」 「行ってらっしゃ~い」 二人が緩い挨拶を済ませたところで、理恵は隣の家から出てきた人物を目で捉えた。 「あっ、慎司君おはよ~」 言いながら慎司へと抱き着き、そのまま――― 「チューしよチュー」 「…おはムグッ」 慎司が返した挨拶も聞き終えないまま、理恵は唇を重ねた。 「うにゃ~、慎司君の耳たぶ柔らか~い」 「理恵さん……くすぐったい」 続けて耳たぶを口に含み、舐め回していく。 その光景を見て黙っていない人物が横には居るワケで、 「理恵、いい加減にしなさい」 弟を溺愛する姉―――里美は、理恵の肩を掴んで慎司から引きはがした。 「え~、まだ足りない…」 性懲りもなく慎司へ手を延ばす理恵を、里美は少し厳しい口調で宥める。 「我慢しなさい、私だってしたいけど我慢してるのよ」 「…は~い」 理恵は渋々といった感じで脱力したが、次の瞬間には慎司と手を繋いでいた。 それには里美も注意をせず、自分も反対側の手を握った。 「行きましょうか」 「行こう行こう~」 「……あぁ」 みんなで手を繋いで登校するのも、今となっては日常茶飯事。 同じ高校の生徒が増えてくる通学路までは、この状態を継続する。 他の生徒に見られないようにするのは、二人なりの慎司への配慮だ。 自分達だけしか居ない時は気にすることなくベタつくが、他人が居るときは態度をわきまえる。 二人が第一に考えるのは、愛する慎司の幸せだから―――。
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