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「わ~い、完成~ッ!」
焼き上がった理恵のクッキーは、意外にも普通の見た目をしていた。
(…何が起きた?)
春香の頭に疑問は尽きなかったが、クッキーに神が降臨したのだと、無理矢理にでも納得する。
「頑張ったじゃない理恵、上手く焼けてるし」
「えへへ~、材料も確認したからね~」
(あぁ、材料はな…)
唯一真実を知っている春香は、苦笑しながら二人を眺めていた。
そして遂に、里美が禁断の一言を発する。
「一個味見するわよ?」
「ッ?!やめっ――」
「ダメだよ~、最初は慎司君に食べてもらうの~」
流石に見過ごせなかったので止めに入ろうとした春香だが、理恵自身が断り事無きを得た。
「うん…、まぁ大丈夫よね」
「うん、完璧だよ~」
(うん、甘璧だな)
三者三様の想いを抱きながら、クッキー作りは終了した。
昼休みになり、生徒達は各々行動を起こし始める。
慎司は、いつも通り里美が作ってくれた弁当を取り出し、前の席にコンビニの袋を持って移動してきた剛と一緒に食べることに。
「慎司、里美さんの愛情たっぷり弁当よこせ」
「……ダメだ」
「唐揚げ一個」
「……ダメだ」
「卵焼き一個」
「……ダメだ」
「米粒、コンビニのフライドチキンと交換」
「……………………………………………ダメだ」
「チッ、あと少しか」
米粒とフライドチキンを交換しようとする剛もだが、それを断る慎司も相当姉が好きなのだろう。
二人がそんな風に言い合っていると、慎司の携帯が振動した。
ディスプレイに表示されているのは、『姉ちゃん』の文字。
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