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五月下旬、早朝6時。
二階建の一軒家が立ち並ぶ住宅街、その中に『葉山』という表札の家がある。
現在その家では、落ち着いた大人の雰囲気を醸し出す女性が朝食の準備をしていた。
少しだけ着崩された制服をまとっている葉山里美(ハヤマ サトミ)は、慣れた手つきで調理を進めていく。
ブラウスの間から見える胸の谷間は彼女の妖艶さを強調しており、とても高校2年生には見えない。
しかし、その上から着用しているエプロンが彼女に優しい印象も与えていた。
そして何より、彼女の浮かべている笑顔が子どもっぽさを演出しており、何ともミステリアスな女性である。
里美は完成した2人分の食事をテーブルに並べ、エプロンを外す。
リビングを出て階段を上がると、左手に見える部屋へと入った。
そうして彼女の目に真っ先に映る光景は、愛する弟がベッドで眠る姿。
(あぁ…、慎司)
音を立てず、しかし足早にベッドの横まで近づくと、弟の顔をじっくりと熱い視線で眺める。
これは、彼女だけの特別な時間。
一緒に住んでいる実姉の里美だけが持つ特権であり、彼女の一日はこれから始まると言っても過言ではない。
(物凄く惜しいけど、時間だから仕方ないわよね…)
そろそろ起こさなければ通学に支障が出るので、最後の締めくくりである行動を起こす。
弟の顔へと自分のそれを近づけ、もはや数え切れない程言ってきた一言を今日もまた告げる。
「慎司、愛してる」
その言葉を合図として、実の姉弟である2人の唇が重なった。
こうして、また一日が始まりを向かえる―――。
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