序章

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(2) 無口な少年である葉山慎司(ハヤマ シンジ)の起床は、姉である里美によって手伝われる。 毎日決まった時間に寸分の狂いもなく起こしてくれるので、姉には感謝するばかりだ。 今日も熟睡していた慎司の耳に、姉の優しい声が聞こえてくる。 「慎司、朝よ。朝食できてるから起きて」 「………あぁ」 まだ覚醒しきっていないのか、慎司は眠そうに目をこする。 「ダメよ慎司、目にゴミが入ったら大変…」 心配そうにその腕を静止させ、里美は毎朝恒例のアレをする。 「それより慎司、ホラ」 「……ん」 里美から慎司へと、当たり前のような流れでキスをした。 慎司にしても全く驚いた様子はない。 それもそのハズ、これは毎朝必ず行われている行為なのだから。 「下に降りよ」 「……あぁ」 慎司は、姉弟でキスをすることに疑問を持っていないワケではない。 思春期真っ盛りの頃は、何度も『変』だと里美に言ったものだ。 だが、何故だか毎回納得させられてしまう。 幼い頃からの習慣だからか、それとも姉の言うことは絶対という意識からか。 もしくはその両方なのだが、止められないのなら考えても無駄、という結論に至ってしまう。 それが、今日までキスを続けてきた理由だ。 慎司本人としては気付いていないが、第三の理由として『嬉しい』という感情が存在しているのも確かである。
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