第一章

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(1) 『葉山』という表札がある家―――その隣に位置する一軒家。 その二階の一室には、ピンク色が目立つ家具や色々な種類のヌイグルミが置いてある、実に女の子らしい部屋がある。 部屋の主である少女―――熊谷理恵(クマガヤ リエ)は、これまた可愛い目覚まし時計の音で起床した。 「…まだ寝た~い」 文句を言っても始まらない。 ほとんど無意識の状態で、感覚を頼りにリビングへと向かった。 「おはよ~、お母さん」 「おはよ~、理恵ちゃん」 理恵と同じような挨拶を返した女性は、彼女の母親である熊谷真理(クマガヤ マリ)。 母親の影響を強く受けて育ったのか、理恵の性格は真理にそっくりである。 おっとりとした雰囲気に、どこか抜けている言動は、正しく天然と呼ばれる部類の人間だ。 「も~理恵ちゃん、またパジャマ脱いじゃったの?」 「う~、寝てる時だから分からないもん…」 母親が見ている娘の姿は、体に何も着ていない状態―――つまり全裸。 理恵は幼い頃からの癖で、起床すると頻繁に脱いでいることがある。 魅力的な身体を惜し気もなく晒しているので、この場に男がいたら目のやり場に困っただろう。 「仕方ないな~。でも早く準備しないと、慎司君待たせちゃうよ?」 「えぇっ?! それはマズイよ!」 理恵は、隣に住む一つ年下の男の子―――葉山慎司のことが大好きだ。 同じ高校に通っているので、毎朝一緒に登校している。 大好きな慎司を待たせるワケにはいかないので、理恵は朝食を急いで食べて準備に取り掛かった。
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