第一章

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(2) 時間はさかのぼり早朝5時。 慎司達が住む住宅街から、歩いて1時間程かかかる場所。 そこには、まるで周囲の家をバカにするかのように、広大な敷地の中に建てられている日本古来の屋敷がある。 大きさに相応して部屋の数も多く、ここの家系の人間だけではなく、彼らの世話をしている使用人も数人住んでいるのだ。 そんな屋敷の中には、一つだけ異常と呼べる部屋が存在する。 その異常な部屋の中に隙間無く貼られた写真、そこに写っているのは全て同じ男の顔―――慎司だ。 この部屋は慎司の写真と布団だけで構成されている、と言われても納得できる程のインパクト。 そんなトラウマでも覚えかねない部屋で安眠している女性は、木戸春香(キド ハルカ)。 こんな狂気染みた飾り付けを部屋に施したのは、勿論のこと彼女だ。 自分の住んでいる家にこんな部屋があれば、住人の誰かが悲鳴の一つでも上げて即座にバレそうなもの。 しかし、春香がこの部屋に写真を貼り始めて数年、未だに見つかったことはない。 何故なら、この部屋には『私の寝室につき絶対侵入禁止!』と超達筆で書かれた紙が、ドア一面に貼り付けてあるからだ。 加えて鍵が3つも掛けてあるとなれば、誰でも入る気が失せるだろう。 そんな部屋の中、余裕で爆睡できている春香も異常なのだろうが、それに反して、彼女の体内時計は恐ろしく正確だ。 普段春香が起きる時間である早朝5時、今日も時間ピッタリに彼女は起床した。 春香が目を開くと、眼前に広がるは慎司の顔、顔、顔―――。 「あぁ…、慎司」 春香はそんな光景に身体が熱くなり始めたが、どうにか意識を保って我慢する。
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