与えられた蝋印

5/10
前へ
/89ページ
次へ
『ユナ!これを持っていってくれ』 そう言って指示を出したのは イタリアに配属となるきっかけとなった恩師 ヴェンハ・ダ―ンク 60歳くらいの灰色髪でスーツと白手袋が似合う人だ。 厳しいが、優しい人だ。 「はい!この本達を運びます」 任せてください。というように頷いて受け取る手に力を入れる。 するとヴェンハは新本の耳元で 「気をつけろ。ジャンは手が早いからな。」 と言い、ニヤリッと新本と目を合わせた。 それと同時くらいに指がツンっと傷んだ気がした。 思わず後ろを振り向き、ジャンを見た。 ジャンは先ほど話をかけてきた男だった。 「…はぁ。」 苦笑いでヴェンハに向き直り 再度しっかり本を抱えて立ち上がった。 「まだまだ仕事は残ってるからな」 ヴェンハはそう言うと屋敷の奥の方へ歩いていってしまった。
/89ページ

最初のコメントを投稿しよう!

130人が本棚に入れています
本棚に追加