与えられた蝋印

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ジャンの態度に少しなりとも気づかなかった訳ではないが 新本は仕事に熱心だった。 そして、この仕事で成果を上げて母国に戻ろうと決めていた。 まだ当分は帰れない。 常に彼女を襲う不安は ホームシックではない。 時代の流れを身体で感じて、恐れているのだった。 生まれた瞬間終わりが待っている。キリスト教徒ならば肉体あらば戻れる、という意味で埋葬だが 私は日本人でキリスト教徒でない。 終わりは死を意味する。 誰にも止められない砂時計… いつ消えてしまっても可笑しくない命。 偶然は必然、事故に遭うかもしれない。たまたま… そんな言い訳をして人生を終わらせたくないから 今やるべきことをやっていく。 当たり前だ。 だから、私は選抜されて配属となった此処で仕事に奮闘する。 恋なんて、うかれているのが勿体なくてしょうがない。
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