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「みんなアレンデ様が助けに来てくれたぞ!」
次に聞こえたのは若い男の声。
それから次々にお礼とアレンデを崇める台詞が聞こえ始めた。
ものの数十秒で村人が外に出てきて、アレンデを囲んだ。
「静かになったと出てきてみれば、英雄アレンデ様が助けにきてくれていたとは。
感謝仕きれませぬ。
少ないですが、お礼です」
老人が前にでて、アレンデに話しかける。同時に手の平に収まるくらいの袋を差し出す。中身は間違いなく金だろう。
「いえ、魔物から国民を守るのが私の使命ですから、当たり前のことをしただけです。感謝の言葉だけで十分ですよ」
アレンデはロイに対するくだけた話し方から変えて、しっかりとした言葉遣いにした。
ロイは似合わないと、小さく呟き隠れながら笑った。
「……なんとお優しい方だ。村を代表して、深くお礼をさせていただきます。ありがとうございました」
「どういたしまして」
アレンデは小さく村中の人に見えるように微笑む。歓声がわき起こった。
そして
「アレンデ様、ロイ。本当にあり」
ナナがお礼を言おうとしたその瞬間だった。
「ナナチル!貴様何をしていた!」
突然の怒声にナナは顔をしかめた。その怒声で、村人は全員ナナを睨む。
「ナナ?」
「なんでもないよ。ロイは気にしないで」
無理に笑みを浮かべて言う。しかし、ナナへの暴言は止まらない。
「なにが守るだよ。腰抜けから生まれたくせに。食べ物だけ食らう寄生虫」
小さい声で言われた暴言だが、ナナにもロイにも聞こえた。
「父さんも母さんも……腰抜けじゃない!」
ナナが叫ぶ。ロイにはそれがとても悲痛な物に聞こえた。
「は、腰抜けさ。魔物を前に立ちすくんで死んでいったんだからな。なにが防人だ」
「違う!」
「違わないね」
圧倒的な数の暴力。ナナが懸命に否定しても、それは意見として扱われない。
ロイには話が理解できず、止めた方がいいと思いながらもどうすることもできずにいた。
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