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「うまぁぁ!?」
「そんなスープくらいで……」
ロイが作ったのは塩で薄く味付けをした野菜スープ。後は適当にパンを付け合わせただけの食事だ。
「いや、男の手料理ゆーと豪快なものを想像したんやけど、きれーに野菜は切っておるし、味は繊細やし。予想外や」
「男二人で暮らしてたし、料理するの俺だったし」
空気が重くなる。アルの手が止まり、何か言葉を探している。ロイはそれに気づき、何ともないように振る舞った。
「あー気にすんな。楽に行こうぜ」
「……おぉ、じゃあ。気を取り直して自己紹介といこうやないか。
わいはもうご存じの通り、アルレンス・ユノワール。一応貴族ってなっとるけど、そこまで偉いわけやないから」
スープを飲みながらパンをかじる。
薄い塩味のスープがパンに染みて、柔らかい触感とパンの甘みと野菜の甘みが程良き合わさる。
アルは一口ごとに舌を巻くばかりだった。
「俺はロイウェル。体術推薦でここ入った。だから魔法はほとんど使えない」
「ほんまか。体術推薦は数人しかいないと聞いておったが、ロイがその一人なんやな。
わいは風をイメージした魔法が得意や。あと情報集めも割と得意やなぁ」
食べ終わった二人は皿をテーブルの上で重ね、ロイが片付けようとする
「あ、方付けはわいがやるわ」
「そうか、ありがと。俺は強いて言うなら、打ち消し魔法が使える。しょぼいけどな」
「近接なんやからちょうどいんやない?おぁ、水が冷たい。魔物との戦いはどうするんや?」
「それはナー、あー武器にエンチャント(魔力付加)してもらうかな」
ナナリアを使うと言いそうになり、とどまった。
騒ぎを起こしたら面倒だ。
そう思ったからだ。
魔法の難しさがわからないロイだが、ナナリアなどの魔力が蓄えられている武器は高価で貴重なものということは知っていた。
アレンデは一人で作ってしまうが、本来ならば上位魔術師が五人くらい集まって作る。
「へぇ……魔物と一人で立ち回るときつそうやな」
「まぁね、ははは」
苦しい笑い方だった。
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