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「ここか?」
息も切れ切れにロイは口を開く。
闘技場前。古代の闘技場をモチーフに岩をメインに組み立てたアンティークな建物。
もちろん激しい魔法合戦や重火器の威力に耐えられる、とても堅い仕組みで出来ている。
案内人に出場者案内屋までの道を教えてもらい、ルルの待つ部屋に入る。
「遅れました!」
「遅いぞロイウェル!何してた?」
「迷子に」
「……!!」
ルルはどんな罵倒を浴びせてやろうかと思考したが、これからの戦闘を思い、やめた。
一気に怒りの気が失せ、うっすらと笑みを浮かべた。
(何を……逆に来ない方がよかったじゃないか。私の喧嘩に彼を巻き込むべきじゃない)
近くにあったコップを手に取ると、水を入れて一気に飲み干す。
くるくる変わる表情をロイは面白いなと思いながらルルを見ていた。
ルルが覚悟を決め。ロイを見る。
「……付き合ってくれてありがとう。君が恐怖せずに着てくれた事実だけで十分だ。勇気がわいた。だからもうここから出て行け」
一人で戦う覚悟だ。おそらく負けてあいつらの下僕になってしまうだろう。本物の奴隷のような扱われ方はされないだろうが、酷い学園生活が待ってるだろう。
だが、「いや、戦うけど?」
ルルの思考は一声で遮られる。
「……は?」
「そーいや、アルとユユは?」
「あ、観客席にいるぞ」
「そっか、負けたら恥ずかしいし、頑張るか」
自信のこもった笑み。
なんの不安も見せない。
ルルは呆気にとられながらため息をつく。
(魔法の使えない男がこんなに勝つ気なのだ。始まる前から負ける気でどうする)
追いつめられた獣の爪と牙は折れかかっていたが、瞳に刈る側の獰猛な光が宿る。
「勝つぞ!」
ロイが拳を出す。
「勿論だ!」
言葉はそれ以上いらなかった。
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