~小田原戦~

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「なんでこんなものを持ってるんだ?」 「あぁ、変装用にね」 さらりとそう言ってのける佐助。 「時間がないから手短にいくよ」 そう言ってあれよあれよという間に鴉を飾り付ける。 (我より手慣れておる…) そのことに少しだけ感心し、そして虚しくなった。 自分はこんなものも召したことがない、と…… 藍色の下地に桃の花。 派手さはない。 だが鴉によく似合っていた。 「後ろ向いて」 言われるままに後ろを向く鴉。 佐助は鴉の髪を結い始める。 「…これは俺様から」 髪にすっと飾られたもの。 見事な細工の櫛だった。 「佐助…!!」 振り向いた鴉を佐助は強く…強く抱きしめた。 「死ぬな」 たった一言。 だがその声は震えていた。 「…馬鹿者。当たり前だ」 鴉はそう言ったが、佐助を抱き返そうとはしなかった。 私たちに慰めはいらない。 抱き返すのは帰ってからだ。 (だって我は死なないのだから) 「行こう。美音様が待っている」 「ああ…そうだね」 離れていく体温に、寂しさを感じたが、鴉はそれを振り払うように戸を開けた。
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