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「美音…」
涙を流す美音に、幸村は何も言えない。
ただ愛する人を悲しませている、その事実だけが重くのしかかる。
(……かつての自分がそうだった)
主の意思を無視しててまで守り抜こうとしていた愚かな自分。
でも、それでは、誰も喜ばないのだ。
「…敵陣へは私もお供します。美音様のことは私にお任せください」
「任せて…良いのだな?」
「はい」
鴉は頭を上げ、まっすぐ幸村を見た。
(己の命と引き換えにしても守ってみせる)
美音の前では決して口に出して誓わぬ言葉を、鴉は幸村に目でその意志を伝える。
幸村は小さく頷いた。
そして美音を向く。
「幸村…」
「美音…泣かせてすまなかった…」
幸村は優しく指で涙を払う。
「……豊臣との話し合いを任せてもよいか?」
不安そうな声。
「はい」
美音はそれにしっかり頷いた。
「ありがとう…」
「幸村…ううん、私のほうこそありがとう」
美音の笑顔につられて、幸村の表情が微かに明るくなる。
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