第一章

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☆★☆ 「「「「カンパーイ!!!」」」」 店の中に一際賑やかな乾杯が響いた。 「いやー、やっぱあたしの実力だよね」 テーブルに足を乗せ、不適に笑う樹。 「いやいや、俺の格好よさでしょ?」 樹の大胆にめくれたスカートと直すハル。 「CDばら撒いたのはよかったな」 爽やかに微笑みタバコに火を点ける蘭。 「俺のドラムもよか「うるせえよ寛貴」 ぶーっと頬を膨らます寛貴。 「デビューが近付いたねー」 BREAKは音楽業界最大手事務所のWAVEにスカウトされ、デビューは確実だった。 そのため、急遽反省会からお祝いパーティーに変更し、4人はいつにもまして楽しく呑んでいた。 「最高の誕生日プレゼントだよマジで!!」 ビールを豪快に呑みながら言う樹の言葉を聞いて固まるハル。 「え、お前誕生日今日だっけ?」 「ん?いや、明日だよ。つっても後30分くらいで明日になるけどね。 …さては忘れてたな?」 ニヤリと笑いながらハルの顔を覗き込む樹。 樹と目が合ったハルは、いきなり立ち上がると携帯をポケットにしまい、 「樹の誕生日は俺が一番に祝うんだからな!!お前等、フライングすんなよ?! 樹、30分以内に戻ってくる!!」 と叫び、店を出ていった。 「あいつ、今日バイクだろ?酔ってたけど大丈夫かよ。雪も降ってんのに」 蘭の心配をよそに、窓からバイクに慌てて跨るハルが見えた。 「あいつはいつも飲酒運転だよ。ほんっと危なっかしいよなー」 呆れたように呟く寛貴に樹は強気に言い放った。 「あいつは死んでも戻って来る。だってこの樹様の誕生日だし?」 しかし樹は、 たびたび襲ってくる嫌な胸騒ぎに不安を拭い切れずにいた。 (あたしはプレゼントなんかよりあんたに傍にいてほしいのに。) その日、時刻が0時を回っても ハルは帰って来なかった。
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