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「・・・」
静かな森
静か、私は静寂が好きだったのに
「・・・」
遊園地の音はもう聞こえない
耳が狂う程の不況和音が
今は凄く懐かしくて
愛おしい
私はきっと
あの狂った音に頭も狂わされたんだ
「カリア」
「・・・ボリス」
「またぼーっとして、どうしたの?」
「・・・考え事」
「ふうん」
ボリスは猫だから、別れは平気らしい
しみじみ、私はこの世界の人間じゃないんだと思った
「カリア、俺は絶対あんたの側から離れないよ」
「・・・え?」
「俺、チェシャ猫だから自分の望む所に行けるだろ、だからもし俺が引っ越しでもすぐにあんたの所に行く」
「・・・でも音だから、すぐにどこかに行くでしょ」
「・・・それは、そうだけどさ・・・」
ボリスの尻尾がぺたん、と地面につく
「・・・ボリス」
「ん?何?」
「私はボリスを待ってるから」
「・・・ああ!」
ボリスの尻尾が嬉しそうに揺れた
ボリスが何処にでも行くチェシャ猫なら
飼い猫にならない猫ならば
私はそのチェシャ猫を待つ
「ねえ、ボリス」
「何?」
「ボリスがチェシャ猫でよかった」
「俺も俺がチェシャ猫でよかったよ」
ボリスはぎゅ、と私を抱きしめた
・・・いつか私は元の世界に帰る
夢のような生温い現実にはいられない
だけど今だけは
今、この時だけは
ドアで繋がれたこの猫と
一緒にいさせて
「・・・・・・ボリス、私ね」
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