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人工の、乾燥した雪が遊歩道を濡らす。傘に積もる雪を定期的に払いながら、私は目的地へと足を急がせた
ここいらに生えている木は本物でも、それを照らす光は人工のものである。高いビル群を呆れる程建てた為、直射日光など無いからだ
『私はこんな使い方をさせる為に土地を売ったつもりは断じて無い』
自分の心の中だけで不満をぶちまけた。どうせ話す相手もいないのだ、口を動かすだけ無駄だろう
辺りは夜だから、薄暗い。全てのビル群の光は洩れぬよう、窓に黒い幕がかかっている。人工灯の悲しい光だけが私を見ている
『これから審査をする子は、どうして私自ら行かなくてはならないのか』
どうせ時間はあるんだ、考え事をしてれば、あっと言う間につくだろう
これから行く所は、その子が預かられている孤児院だ。あと三百メートルくらいでつく
調書によると五歳。人見知りで外に出たがらない内気な子。いつも本を読んでいるとのこと。少し前、事故で両親を無くし孤児になった。親戚は皆無……
見事な程、孤児だった。言い方を変えるとすれば、典型的な孤児だ。何かで親を無くし、親戚が少ない又はいない。信頼するものが死んだショックから心を塞ぎ込み、最後は弱々しい人間になる。一番扱いやすい種類の孤児。
私はそう思っていた。しかし、この軽い気持ちの訪問が私の人生を変えた
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