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しばらく歩き続け、置き型の灰皿を見つけた。人為的に雪が降る地帯は既に抜け、両手が空いたし、時間に制約は特に無い。私はジャケットから煙草を取り出し、口に加えた。これだけで自動的に火が付く
「全く…審査係は何故私に押し付けたんだ…」
『こんなひ弱な年寄りに』と付けたし、煙草を吸うことに集中した。声に出すのは労力の無駄だ
『きっと、ご自分の目で見た方が良いですよ…』
何を私の目で見ろと言うのか。行けば分かる。という言葉は理由にならないと常々思う
煙草が短くなり、灰皿に擦り付けてからまた歩き出した。そろそろ、孤児院が見える頃だ
『しかし、彼女は冗談や考え無しで物を言わない。やはり何か訳があるのだろうか…』
思考に目一杯で上の空だった私は、今自分が孤児院の前にいて、インターホンを鳴らした事に気付かなかった
『マリウス様…ですね?』
「ん、ああそうだ。審査に来た。ええと…ヴァイスという子なんだが…」
自分でも驚く程狼狽した。やはり年を取っては、二つの事を一度に出来ない
『あ……はい。今扉を開けます』
三秒もたたないうちに鉄格子の扉が開き、すぐに庭に入った。滑り台や、ブランコ。半円に骨組みされた、回転する遊具などがあった。何人かの子供が遊んでいたが、私を少し見ただけで元の騒がしさを取り戻した
「マリウス様。あの…本当にヴァイス君の審査に?」
インターホンでのと似た声の、細い女性が出迎えをした
「その言い方を聞くと…その子はさほど良い子では無いんですね?」
「ええ…。なんていうかその……変です」
先程からの、この従業員の態度を見る限り、やはり審査係はわざと私を使わしたようだ
「ふむ。では早く案内して下さい」
私はいつの間にか恐ろしく前向きになっていた
「久しぶりに面白い時間を味わえそうだ…」
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