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さかのぼること2年前…
「おれは嫌だって言ってんじゃん!」
ユウスケは激昂していた。
普段穏やかなユウスケからは考えられないような激しい怒りであった。
「そんな甘えが通用すると思ってるの!?今すぐ部活に戻りなさい!!」
ケンカの相手はユウスケの母親であった。
原因はユウスケが大学で所属していた部活を辞めたことであった。
この頃、母親とユウスケは毎日のようにケンカをしていた。
部活に戻ることを拒否するユウスケと何としてもユウスケを部活に戻したい母親…顔を合わせれば言い合いになる日々であった。
母親とのケンカに消耗し、部活を辞めて生き甲斐を失ったユウスケは暗く沈んだ気持ちで毎日を送っていた。
そんなユウスケの唯一の心の支えが、ユウスケの彼女であった夏美である。夏美はユウスケよりも3歳年下の女子高生であった。
周りからは女子高生と付き合っているというだけで、ずいぶんチヤホヤされたし、実際のところ夏美は可愛かった。
夏美の存在だけを生き甲斐にユウスケは派遣のアルバイトを始め、母親にもう部活に戻る気がないということをアピールした。
家では相変わらず母親とのケンカが絶えなかったが、夏美といる間だけはツラさを忘れられた。
ユウスケと夏美はよくドライブに出掛けた。
車は母親から借りたオンボロのワゴンRだ。見た目もボロければ内装もボロい。でも、唯一の自慢は5速MTだったことだ。
田舎町の車の扱いは大体こんなものだ。女の子も都会の子のように高級車を乗り回す男に引っ掛かるような子は珍しかった。
車なんて乗れれば何でもいい。
ユウスケも夏美もそう思っていた。
ただ、5速MTの運転は車に興味はなくとも楽しかった。
何より、シフトチェンジの度に二人でシフトノブに手を重ねてシフトワークをすることが、とても幸せを感じられた。
生き甲斐は無くした…でも…夏美との楽しい時間が続くならそれでいい。
そう思っていた。
ところが…ユウスケの握った運命のステアリングは確実に誤った方向へと向き始めていた。
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