002

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「はぁ…。」 さっきから溜め息ばかりしてる。 「さっきから溜め息ばかりして、幸せを逃しちゃうよ。」 幸せならもう逃している。 その幸せを取り戻そうともしない。 「別にいいんだよ。幸せはとっくに逃してるんだから。それに人生不幸の方が多いんだ。」 「………そうだったね。」 そう言って琴奈は少し落ち込んだような表情を見せる。 気にしすぎだよ。 秒数にも満たない間を空けて琴奈が口を開いた。 「変なこと言ってごめんなさい。」 ちゃんと謝ることのできる良い子だと感心する。 「気使いすぎだと思うぞ。」 「だって…。」 「別にお前のせいじゃないだろ。自分が無力だっただけだよ。」 琴奈はそれ以上話そうとはせず黙り込んでしまった。 そんな琴奈の背中姿に自分はついて行く。(寮までの道を琴奈しか知らないからだ。) 琴奈が気にかけるのも分かる。 自分は久瀬家の跡継ぎだったのだ。 久瀬家は世界でも権力、魔力ともに大きな力を所持している。 その跡継ぎを外され家系上若くて期待されていた琴奈が跡継ぎ役に抜擢された。 自分が跡継ぎだったころに琴奈とは何度か顔を会わせている。 最早幼なじみと言ってもいいだろう。 そんな彼女にある日跡継ぎの座を盗られた。 最初は嫉妬した。 でも諦めた。 それでも最後まで嫉妬した。 でも諦めた。 今では琴奈は血の繋がりのない妹だ。(自分の誕生日が5月で琴奈の誕生日が9月のため妹だ。) つまり義妹である。 いや寧ろ久瀬家の人々に「お前は久瀬家の人間ではない。」など言われている自分が義兄なのかもしれないな。 中には拾ってきた子まで言う者までいる。 家庭での幸せの一時など短いものだった。 だから琴奈がそう言った言葉に気にかけるのも分かる。
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