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私がただ呆然と立ち尽くしていると目の前に居る"私"は一度だけニコッと笑うと走って行ってしまった。
一体、あれは何だったのだろうと疑問に思いつつ"私"が走り去って行った方をぼんやりと眺めていると、今度は突然後ろから大声が聞こえた。
「ようやく見つけましたよ!!アリス!!」
ふと後ろを振り向くとそこには兎の耳を生やした白銀髪の少年が目に飛び込んできた。鮮やかな紅い瞳に意味のない程小さな丸眼鏡をかけ、黒みがかった紅いジャケットにブラウンのベスト、蒼の蝶ネクタイに深緑の半ズボン。焦げ茶色のロングブーツを履いており、無駄に大きな懐中時計をショルダーバックのように提げている。
何ともまあ場違いな格好だ。身長は私の肩ぐらいしかないからきっと年下なのだろう。
ふと私は何処かでこの子を見たことがあるような気がした。
「白…ウサギ…?」
そう。幼い頃、母さんが散々私に読み聞かせた絵本に出てきたあの白ウサギだ。
さっきの"私"と言い、この子と言い…コスプレでも流行ってるの?
「何を今更言っているのですか」
白ウサギは私にズカズカと近付き、私の腕を掴んできた。
「さぁアリス、不思議の国へ帰りましょう」
「……はぁ?」
にこやかにそう言う白ウサギに対して今の私はきっと凄く間抜けな顔をしていただろう。
この子は今、何と言った?はぁ?不思議の国?何処よそこ。
「何を間抜けな顔をしているのですか。さっさと帰りますよ」
そう言いながらぐいぐい私の腕を引っ張る白ウサギは突然走りだした。
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