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「…………」
さて、この状況をどう説明しよう。
「何をしているの、早く行くわよ。」
「あっ、すいません。」
驚きに声も出ない俺をお嬢様は肘でつつき、腕を掴んで引きずっていく。
「まったく……この程度の大きさなら、もう見慣れているでしょう?」
「確かに藤堂の屋敷で見慣れてはいますが、まさか学校がこのようなものとは思っていなかったので……」
まりえの呆れた声に、俺はかゆくもない頬を掻いた。
そしてそのまま、ゆっくりと目線を上げる。
目の前にある建物は、きっと言われなければ誰も学校だとは思わないだろう。
敷地を囲む白い塀は果てしなく続き、何よりでかい。
そして問題の校舎は、中世ヨーロッパにありそうな時計搭やレンガ造りの大きなお屋敷。
何度も目をしばたかせるが、目の前に広がる現実が夢や幻であるわけがなく。
ここは本当に学校なのだろうか―――何度目かわからない同じ問いを、心の中で呟いていた。
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