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「旦那様は、ただ楽しんでいるだけですからね……」
その言葉にお嬢様もそれ以上は何も言わず、引きずっていた手を放した。
主人に同情される従者―――滑稽としか言いようがない。
「とりあえず今から学長室に行くけど、このままだと完全に遅刻だわ。」
無表情で言うお嬢様を窺いながら懐中時計を見ると、現在8時55分。
朝のショートホームルームが始まるのは、確か9時。
そして下駄箱は未だ遠く、このままでは確かに遅刻である。
「困りましたね……」
「仕方ない……鷹夜、あれを。」
どんなに走ろうが、遅刻は確実。
眠気を誘う陽射しの中参ったという顔をしていると、おもむろにお嬢様が手を出してきた。
「あれって……使っても構わないのですか?」
「別に大丈夫でしょう。」
思案するこちらを無視し、お嬢様は催促するように更に手を前に出す。
ちなみにそんなお嬢様の目は、何故か据わっていた。
「確かにこのままだと、いつたどり着くかわかりませんね……」
そう言ってため息をつき、ごそごそとポケットを漁った。
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