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本当は、こういう時に使うものではないのだが―――内心そう思うが、もちろん口には出さない。
相変わらず困った笑みを浮かべながらも、ポケットから出した物をお嬢様の手に置く。
昔からお嬢様のお願いに弱い、俺の悪い癖だ。
「あら……今回はブレスレットではなくて、指輪なのね。」
「はい、同じ物では芸がないと思いまして。」
お嬢様の手にあるのは、どこからどう見ても少々派手な指輪。
一見ただのシルバーリングに見えなくもないが、白・黒・赤・青・黄・緑といった小振りでカラフルな宝石があしらわれている。
「指輪になっているものは初めて見たけど……まぁいいわ。」
お嬢様は一人納得しながら右手に指輪をつけ、俺に視線を向けた。
「さて、行くわよ。」
今から彼女がしようとしていることなど、容易に想像できる。
俺はやはり苦笑を浮かべながら、一つ年上の主人に近付いた。
そんな俺を彼女は確認し、目を閉じて指輪に意識を集中している。
もちろん俺は邪魔にならないように、何も言わない。
すると急にぬるい風が吹いたかと思うと、俺たちの足元に光り輝く陣が現れた。
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