あなたの背中

中国へ

ガヤガヤとした中で聞こえてくる、日本語ではない言葉。
あちこちをそれが飛び交っている。
私は緊張しつつ里海の手を握りしめ、歩きながら辺りを見回した。
「…ここが中国…」
ﾊﾜｲには連れて行ってもらった事があるが、中国は初めてなのだ。
遊真と斗真も珍しそうにキョロキョロと視線を遊ばせている。
その前を颯爽と歩く海斗の足は道など分かりきっているかのように迷いがなかった。
すれ違う人がみんな振り返っていく。
分かってる。
その視線が私の旦那様に向けられたものだって事くらい。
ため息をつきつつ、前を歩く海斗を見た。
真っ黒なﾛﾝｸﾞｺｰﾄを肩から羽織り、その下のｽｰﾂは誰がみても高価だとわかるだろう。
ﾀﾞｰｸｸﾞﾚｰのｽｰﾂは嫌みなくらい海斗に似合っていた。
そして何より、ｻﾝｸﾞﾗｽだ。
今日の海斗はｻﾝｸﾞﾗｽをしている。
ｻﾝｸﾞﾗｽをしている事自体が珍しいわけではなく。
組み合わせが…マズい。
ｻﾝｸﾞﾗｽにﾀﾞｰｸｸﾞﾚｰのｽｰﾂに黒いﾛﾝｸﾞｺｰﾄ。
そして高い身長に細いながら逞しい体。
まるで…
「ﾔｸｻﾞみたい。」
隣りで斗真がﾎﾞｿｯと呟いた。
考えていた事を先に言われ、思わず目を丸くする。