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「それじゃあ行ってきます、利君。」
「いってらっはい、ハルカ。」
狭い玄関のドアを開けて、私がいつものように可愛く笑ってそう言うと、
利君は歯を磨きながら、まだボ~っとした顔で手を小さく振った。
相変わらず寝起きの悪い彼は、顔色も悪く、目も半目のまま。
開いたドアから差しこむ朝の太陽の光が、利君の顔を照らすと、また鬱陶しそうに更に目を細めた。
「・・・あ。ひょう、なんひにはえってふるの?」
口の中でシャカシャカとハブラシを動かしながら、利君は思い出したようにそう口を開いた。
たぶん『今日、何時に帰ってくるの?』と言いたいんだろう。
「授業終わった後バイトがあるけど、8時半には帰ってくるよ。」
「あ、ほう。ゆうはんふぁいる?」
「うん。夕飯食べる。」
「なにはべはい?」
「今日も寒いし・・・カレーが食べたいな。」
「ハレー・・・
りょーはい。じゃあいってらっはい。」
利君はまだ半目のまま。
耳にかかっている少しクセ毛がちの髪の毛も、ボサボサ。
口の周りにも、だらしなく歯みがき粉の泡がついている。
でもきっと今日の夕飯は、
スパイスからこだわる美味しいカレーを、きっちりと作ってくれるんだろう。
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