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大学の講義もバイトも全て終え、身体がクタクタに疲れきっている。
私はゆっくりとした足取りで、
クリーム色を基調とした柔らかな雰囲気の漂う、10階建てのマンションに向かう。
エントランスを抜けてエレベーターに乗り、そして5階で降りる。
バッグから合鍵を取り出して、目的の部屋のドアの鍵穴に差しこんだ。
ガチャ。
「ただいまー。」
玄関のドアを開けてそう口にする。
・・・・・・
返事は返ってこない。
でもその代わりに、あの独特のスパイシーな香りが、鼻先をかすめた。
ぐう・・・と私のお腹が鳴り、ソレが狭い玄関に小さく響く。
すると、その後すぐに奥のリビングのドアが開き、ヒョコっと利君が顔をのぞかせた。
今朝とは違い、ボサボサだったクセッ毛もちゃんと整えられている。
「おかえり。
腹の音が聞こえたと思ったら、やっぱり居たんだ。」
「・・・何で『ただいま』は聞こえてないのに、そっちの音は聞こえてるの?」
私がそう返すと、利君は吹き出すように小さく笑った。
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