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「今日は・・・大胆にも、レモン汁・・・すごい高かったカルダモンが・・・」
少し肩を落としてブツブツと呟きながら、
利君は、食べ終わった自分のお皿を手に持ち、キッチンの流し台へ向かった。
そして、色とりどりの小瓶が並べられている戸棚に手を伸ばし、
そこから白い粉が入った小瓶を取り出し、シミジミと眺めていた。
たぶんアレが、さっき言っていた“高かったスパイス”なんだろう。
利君は、女顔負けの料理上手で、細部にまでこだわりを持つ料理マニアだ。
まあその情熱が、料理だけにしか注げられないという、少し冷めた人間でもあるけど。
だからこそ、鬱陶しくつきまとってくる男たちと違って、利君と一緒に居るのはとても楽だ。
彼は“自分”を押しつけない。
私の行動に深く干渉しない。
他人と心を通わせるよりは、一人何かに没頭する時間に、浸水している。
全く他人に興味が無いのではなく、求められるまで、自分からは求めないのだ。
だから利君は、とても私に似ている気がする。
彼も私と同じ、
自分の中だけで完結した世界に住んでいる、寂しい住人だ。
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