29人が本棚に入れています
本棚に追加
「潜り込ませたスパイは確かに優秀な奴だよ、けど、こんなに大々的に情報が漏れることに対して少しは疑いの目を向けた方が良いんじゃないか?」
脚を組みながら峯は言った。
「表も裏も東町の奴らが黙ってるわけがないよ。
それに、正確な進攻の日程がわかるなんておかしいじゃん」
小倉も言う。
「わかったのは準備完了目安ってことか?」
黒田が聞く。
「準備が終わったその日に進攻を始めることなんて、あり得なくない?」
逆に峯は黒田に聞いた。
黒田は黙る。
「表の奴らの目があることを忘れてるのかな」
小倉の言葉に黒田はうつむく。
「じゃあ、この話は…」
驚きを隠せない藤代。
「半分嘘で半分本当ってとこ」
峯は言い切った。
一同は再び黙り込む。
「商人さんの話は信じていいが、東町進攻は疑わしい。
おそらく、おれたちの気を引いて早良町南方から来ようって考えだな」
しばらくして峯は口を開いた。
「港を得るためだけに東町進出ってのは奴らにとって、あまりにも無謀すぎるからね。
筑紫郡と東町の間には糟屋郡があるから、現地に着くまで確実に時間がかかる。
東町に手こずってる間に博多町から攻められたり、南町が心変わりしたりする恐れを考えると、狙いは東町ではないな」
小倉も続けて口を開く。
「となると、奴らの狙いは…」
藤代は腕を組んでつぶやいた。
「俺たちを那珂川に誘き寄せる?」
黒田が推測した。
筑紫郡で早良町と隣接しているのは那珂川だけである。
「俺もそう思う。
那珂川に深入りして退路を絶たれたら筑紫郡で孤立してしまう。
奴らはそれを狙ってるのか…」
亀山も黒田と同じ推測のようだ。
「うんうん、東町の奴らが先手を打って筑紫郡に攻め入ろうにも糟屋郡が間にある以上は難しいから松野たちにとっては背後を突かれる心配はないからな。
けど…」
「けど?」
すかさず藤代は小倉の言葉尻をとらえる。
「みんな、何か忘れてないか?」
小倉の問いにまたしても一同は黙り込んだ。
「小倉、問いが難しかったようだな。
教えてやったらどうだ」
沈黙から二分たって峯は言った。
「商人さんの指定日と奴らの東町進攻開始日が一緒。
これが何を意味するかわかる?」
「…契約と奴らの背後の両方を狙えば、俺たちは二手に分断される」
小倉の問いに対する亀山の答えに一同は凍りついた。
最初のコメントを投稿しよう!