208人が本棚に入れています
本棚に追加
まだ残暑が色濃い、9月1日。
日本中の高校が新学期を迎える今日、近隣でも名高い私立聖徳学園高等部でも同じように新しい学期が始まりを迎えていた。
休み気分がまだ抜け気っていないのか、多少気だるい印象を受けるのは、どこの学校でもそんなに変わらないことらしい。
そんな中でも――高等部の校舎には体育館が複数あるのだけれど――、一際大きな第一体育館に、全校生徒がずらりと並ぶ光景は壮観だった。
「それではこれより開会式を始めます」
虎狼の甘いくせに涼やかな声がマイクを通して体育館中に響いた。
行事の司会や進行は生徒会の仕事らしく、今朝虎狼は早く登校しないといけないと言って、寝惚けたあたしを起こすと「遅刻しないように!」といらぬ釘まで刺して、すぐに学校に行ってしまった。
毎日一緒にいるはずの虎狼も、こうやって生徒会長という仕事をこなしているときは別人のように凛々しく見えるから不思議。
「虎狼、格好いいなぁ」
新学期の挨拶を何も見ずにすらすらと喋っている会長姿を眺めながら、つい本音が口から漏れた。
1度教室に入って点呼を終えたあたしたちが1クラス2列で並んでいるのは、先生達が便利な名簿順。
勿論、あたしの傍には名前の1文字目までが同じ双子の兄が座ることになる。
逆上せたようなあたしの呟きを聞き逃さなかった隣に座る彼は、虎狼に見惚れるあたしの頬を引っ張った。
「いたぁいっ!
お兄ちゃん何するの?」
「お前、何?
虎狼に見惚れてんの?
毎日飽きるくらいに顔合わせてんのに、顔見たくらいでよく照れてられんな」
心底馬鹿にしたような態度であたしの顔を見ている。
頬を摘む手を叩いて外させてから、後で赤くなるだろう頬を手で擦った。
「いつもの虎狼も格好いいけど、きりっとした生徒会長をしてる虎狼もいつもと違って格好いいの!」
「――お前に接するノリでこんなでかい生徒会の長(おさ)出来るわけないだろ」
それは確かにそうだけど。
どこまでもあたしに甘い虎狼のあの性格のままでは、どんなことも決まらないに違いない。(でもたまに意地悪)
あたしが叩いた手の平を今度はあたしの頭に置いて、お兄ちゃんは軽く頭を撫でる。
虎狼といい梓といい、色々な人に頭を撫でられる傾向にあるあたしの頭は、そんなに撫で回したい形をしているのだろうか。
*
最初のコメントを投稿しよう!