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あたしは自分の顎の下に拳を当てて考える。
夏休み前に襲われた女の子のことを――。
それって、もしかして……。
「あたしのこと、かなぁ」
「――は?」
ポツリと呟いた独白を耳聡いお兄ちゃんが聞き逃すはずもなく、眉を寄せて顔を近付けてきた。
「お前、何言ってんの?」
「夏休み前に襲われたなぁと思って――」
「橘たちにだろ?
取り敢えずあいつらは聖徳大学に進学は出来ないようにしといたから、安心しろ」
いやいやいや、さらりと簡単に、しかも何気に恐ろしいこと言いませんでした?
「え?進学出来ないって?」
「当たり前だろ?
強姦未遂に強姦示唆。
退学にならないだけマシだよ、犯罪行為だそ」
「でも、あたしは無事だったんだから」
「甘いっ!」
お兄ちゃんに一喝されてしまった。
鬼兄はあたしに更に顔を寄せて(集会中だから)小さな声で言い放つ。
「いくら処罰から逃げたって、結局お天道様からは逃げられないんだ。
悪が栄えた試しはないんだからな。今は見た目良くても、しっぺ返しは必ず来る。
いいか、きちんとやったことの責任を取らなければ、この先あいつらはこんな些事も分からないまま生きて行くんだぞ!
虎狼のやってきたことがことだから、おれはヤツらに同情はするが、許しはしない。
虎狼なんて自分のことを棚に上げて、もっとお前が知らないとこでブチ切れてたんだけどな」
「虎狼が?」
「社会的に抹殺するとか言い出したから、説教しといたけど。
お前も月華が許したからって調子にのんなって。元の原因は虎狼なんだから。
月華に近寄ろうとしてた懲りない橘もこないだ締め上げておいたから、しばらくはおとなしくしてるとは思う」
社会的に抹殺って、締め上げたって。
2人とも血の気多いなぁ。
あ、肉が好きだから?
でも虎狼、お魚も好きだよね……。それはお兄ちゃんも一緒かな?
なんて思っていると、お兄ちゃんはあたしの頬に指を押しつけた。
ぐりぐりと抉るように押されて、ちょっと痛い。
「それで?
退学になったヤツらに襲われたのはお前だったってどういうこと?
その顔じゃ橘たち以外にも襲われたってことだよな?」
「あ、うん。
確かそんな記憶が――」
もう遠い過去にあったような気がする。
虎狼が助けてくれたから、何事もなかったと言えばなかったんだけど。
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