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「あの…」
ふと、柔らかな声に片付けていた手が止まる。
見上げると小麦色の毛肌が特徴的な獣人の子が一人ポツンと立っていた。
おそらく声の主なのだろう、質素な布のドレスのポケットを探って小銭を確かめながら会話を続けた。
「ま、まだ大丈夫ですか…?」
少女は申し訳なさそうに彼を見る、勿論特に急いでいるわけでもないので全然大丈夫、と頷く。
「それで、どんなのが欲しいんだい?やっぱり恋愛関連とか?」
彼が聞いてみるも少女は「うぅー」と唸りながら商品と睨めっこしたまま動かない。
空はすっかり夕焼け色に染まり、夜が来ることを告げていた。
それと同時に全身へ気だるさがやってきた。
(そーいや今日ずっと歩きっぱなしだったっけな…)
沈む夕陽を見ながら今夜の宿について考えようとしたとき─
「これ…これください」
少女の発言によってその考えは頭の片隅へと消えていった。
指先を辿ると親指ほどの大きさの淡い金色のペンダントが置かれていた。
それは二日前川で偶然拾ったガラクタで、軽く汚れを拭いただけのお粗末な品物だった。
「きっと似合うよ、そうだ!特別に安くしてあげる」
ちなみにこのペンダント、フタが開かないという欠陥品であるため、装飾品としての価値は微妙だった。
「(まあ首に下げるくらいなら問題無いよね…)じゃあ銅貨六枚でいいや、アハハ」
営業スマイル…とは程遠い苦笑い。
「ありがとうございますっ、でも大丈夫なのですか?てっきりもっと…」
「いいのいいの!」
言葉を遮ってペンダントを少女の手のひらに乗せる。
「さぁさぁ店仕舞いだー!」
わざとらしく声を張り上げながら店を急いで片付け、あっという間にただの平地になってしまった。
その早業は一種のサーカスみたいで散らかっていた品々が綺麗にリュックサックへと収まっていた。
少女は思考が追い付かずポカーンと口をあけて、次には何故か「おー」と拍手している。
「では!また何処かで!」
小走りで去ってゆく水色のソレを少女は小さく手を振って見送った。
暫くして少女は手元のペンダントと銅貨六枚を見てハッと彼が去っていった方角を見てみるも、既に彼の姿は消えた後であった。
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