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ブツブツ文句を言いながら、ただ前へ前へと歩み進む。
逆にそれは恐怖心の裏返し、つまり『強がり』であった。
足取りは早く、しかしどこかぎこちない。
草木の僅かな動きにすら目線を反らす。
梟の声すら響かぬ深い森、彼の警戒心も自然と強くなる。
ふと、雨がピタリと止む。
まるで先程までの天然シャワーが嘘のように晴れたのだ。
後に残されたのは湿気、余計に森の不気味さを引き立てるソレは彼にとっては余り望まぬプレゼントだろう。
「…最悪」
ただ自然に言葉で表す。
そのストレートな発言にはやんわりと黒く重い何かが纏わりついているかのような感覚。
注意が散漫していたのだろう、うっかりつまづきそうになりバランスが崩れた。
バサッと付近の鳥が暗闇の大空へと飛び立つ。
「わぁっ!?」
それと殆んど同時に彼の情けない悲鳴がこだまする。
身震いし、気合いを入れ直す。
きっと夢だ、それも悪夢
そう自分自身に言い聞かせ、また一歩ずつ歩く。
何処まで続くかわからない道、もしかしたら永遠に続くかもしれないほど闇で覆われている。
やがて、雲の切れ目から月が顔を出しはじめる。
ほんの僅かな明かりだが、今はそれでも雲泥の鰲である。
だが、丁度薄明かりが射した頃、彼の視界に影がうつる。
やや驚きながら足取りも止まる、その影は辺りを見回しまるで何かを探しているかのような仕草をしたのち、また何処かへ走り去ってしまう。
一瞬
一瞬だけその影が月の光に照らされた。
「あ…」つい言葉が出る。
見覚えのある顔。
そんなはずは…などと思いながら道なりに歩こうとしたとき。
「嫌ッ!こないで!」
聞き覚えのある声。
彼の頭の中でモヤモヤが解ける。
が、答えが出る前に無意識に走り出す。
行ってどうするのか、なんてものは微塵も考えて無い。
ただ声の方向へと走ったのだ。
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