第1章

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そんな様子をじっと見ていたら、樹に脇腹を小突かれた。 「巴、帰りますよ」 「あ、うん」 店を出て、徒歩15分。 そこに、僕が居候している「フラワーハイツ」はある。 「樹、寄っていかない?」 何となく寂しくて、そう言った。 「でも…」 意外にも、樹は言い淀んだのだった。 「頼むよ。何か、寂しくて」 「…仕方ないですね」 乗り気じゃない樹にもう一押しして、了解を取り付けた。 …かといって、部屋に行っても、何をするわけでもない。 ただ何となく、一緒にテレビを見ている。 お笑い番組を見ていて、笑いのツボが同じなのがおかしくて、思わず顔を見合わせて笑った。 そのまま、僕らはすっごく自然にキスをした。 「巴…」 樹の手が、僕の頬に触れる。 ドキドキしてるのが、伝わってしまいそうだ。 「巴…どうしよう。僕、もう止まりません」 樹が少しうつむいて言った。 「樹…」 思えば、僕たちは夏のあの事件の後からキスの先に行った事がなかった。 「…いいよ。樹なら大丈夫」 意を決して言った。
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