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「龍司、お前の部屋はこっちだ。荷物持って来い」
「はいっ」
龍司さんは、荷物を持って単さんに付いて行った。
僕たちと違って、部屋は別々らしい。
「…単、母さんの事を気にしてますね」
単さんたちの後ろ姿を見送って、樹が呟いた。
「樹?」
「単と母さんは、結婚してないんですよ。単が大学生の時に僕ができたんですが、僕の祖父は単をいたく気に入って、それを怒ることはしなかった。一人前の医者になったら結婚してもいいって言っていたんです。母さんは、祖母の薦めもあって、フランスに帰って僕を産みました。でも、単が医者になる前に母さんは亡くなったんです」
「そんな事があったんだ…」
知らなかった。
「単は、母さんを幸せにできなかった事を負い目に感じているのだと思います。だから、自分は幸せになってはいけないと思っているのかもしれません」
そんな悲しみを、単さんは一人で背負ってきたんだ…。
単さんだって幸せでいて欲しいのに。
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