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「何むくれてるんですか」
「むくれてなんかないって」
樹はベッドから起き上がると、僕を一瞬抱き締めて、ぱっと離した。
「シャワーに行ってきます。CD、どれでも好きなの聴いて下さいね」
樹が行ってしまって手持ちぶさたになったので、CDを物色してみることにした。
高そうなコンポの下の棚には、信じられない量のCDがぎっしり入っていた。
クラシックやらジャズやら、ジャンルは様々だ。
その中に、1枚だけ隠すように置いてあるCDに僕は気付いた。
ぱっと見た感じはクラシックのアルバムらしい。
ジャケットを見ると、綺麗な顔立ちの男性の写真があった。
名前は…アル…読めない。
“Alceste”とある。
そして、その写真の下の小さな写真には、見慣れたあの人が…。
「樹…?」
今に比べると少しあどけなさが残っている。
写真の下には樹のもうひとつの名前があった。
そういえば樹、初めて会った時はバイオリンケース抱えてたんだ。
でも、バイオリンを弾いてるのを見たことがない。
とりあえず、聴いてみよう。
CDを入れ替えた。
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