第3章

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最初に流れた曲はパッヘルベルのカノンだった。 聞こえてきたメロディはとても美しくて…美しすぎて…僕の心の中の奥底に染み透る音色だった。 知らぬ間に、僕の頬を涙が伝っていた。 「巴?」 しばらくそのまま聴いていたら、樹がシャワーから出てきた。 「樹…」 「これは…。それより巴、どうしたんですか?」 樹が優しく涙を拭ってくれた。 「何か、涙が止まらないんだ…」 「そうですか…」 樹はそれ以上は何も言わず、抱き締めてくれた。 「もしかして、ジャケットを見ましたか?」 しばらくして、樹が言った。 「見たよ。君がいた」 樹の腕に抱かれたまま答えた。 「見ちゃいましたか。これは、伯父のアルセストにそそのかされて、一緒に演奏したんですよ」 「樹、もうバイオリンは弾いていないの?」 「ええ…」 樹はそれしか言わなかったから、深くは聞けなかった。
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