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最初に流れた曲はパッヘルベルのカノンだった。
聞こえてきたメロディはとても美しくて…美しすぎて…僕の心の中の奥底に染み透る音色だった。
知らぬ間に、僕の頬を涙が伝っていた。
「巴?」
しばらくそのまま聴いていたら、樹がシャワーから出てきた。
「樹…」
「これは…。それより巴、どうしたんですか?」
樹が優しく涙を拭ってくれた。
「何か、涙が止まらないんだ…」
「そうですか…」
樹はそれ以上は何も言わず、抱き締めてくれた。
「もしかして、ジャケットを見ましたか?」
しばらくして、樹が言った。
「見たよ。君がいた」
樹の腕に抱かれたまま答えた。
「見ちゃいましたか。これは、伯父のアルセストにそそのかされて、一緒に演奏したんですよ」
「樹、もうバイオリンは弾いていないの?」
「ええ…」
樹はそれしか言わなかったから、深くは聞けなかった。
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