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「う…」
しばらくすると、そんな声が聞こえた。
そっと腕から抜け出してみると、樹は何かにうなされているようだった。
「…すみません」
何度も繰り返して、眉を歪めている。
「樹」
あまりに辛そうだったから、揺り起こした。
「…巴?」
樹は不思議そうに目を開けた。
「うなされてた」
「ああ…。いつもの事なんです」
何か他人事みたいだ。
僕は、樹を抱き締めた。
「バカ。辛そうだったよ。見ていた僕が辛いくらい…」
「巴、すみません…」
「謝ることはない。君は悪くないよ」
僕は、小さい頃に母さんがしてくれたみたいに、樹の背中をトントン叩いていた。
「…夢をね、見るんです」
しばらくしたら、樹が言った。
「どんな夢?」
「エミールが…立ってるんです。何も言わないのですが、悲しそうな顔をして…」
「エミールは、僕のせいで亡くなったんです」
しばらく間をおいて、絞り出すように樹が言った。
「…え?」
「あの日、僕は寝坊して…エミールを急かしてしまったんです。僕たちの乗っていた車は事故に遭いました。エミールは亡くなって、アルセストの右腕は動かなくなりました。…全部、僕のせいなんです」
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