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「彼女、来てましたね」
樹が言った。
先に仕事が終わった僕たちは、家のリビングのソファーでくつろいでいた。
「うん…。あの人を見たら、単さんの表情が曇った」
「気付きましたか。…全く、ヤキモチ焼くくらいなら言ってしまえばいいと思うんですが」
樹はやれやれという表情だ。
「…うん」
「本当はお節介焼くのは嫌なんですが、この状態が長く続くのも考え物ですねぇ。…単が帰ってきたら、話をしてみます」
「そっか。うまくいくといいね」
「頑張りますね」
樹が微笑んだ瞬間、玄関のドアが開く音がした。
単さんたちが帰ってきたのだ。
樹はすっとソファーから立って、僕にアイコンタクトをよこしてリビングから出ていった。
代わりに入ってきたのは龍司さんだった。
「おかえり」
何事もなかったようにそう言った。
「ただいま」
龍司さんはいつも通りだった。
「…龍司さん、単さんのこと好きだよね?」
お節介だと思いつつ、訊いてしまった。
「もちろん」
龍司さんはうなずいた。
「単さんと何かあった?」
「いや…。ないけど単さん、最近俺を避けてる気がしてさ。顔を合わせても、何か冷たいし…何か悪いことでもして、嫌われたのかと思って」
そういうことか。龍司さん、誤解してる。
単さんが龍司さんに冷たいのは、嫌いだからじゃない。
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