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華魅は家族という家族を、実は知らないのかもしれない。
優しかった両親は白昼夢で、神と華魅は交互に生きてる。
「・・・・・・ねぇ、神。お姉ちゃん、“幸せ”の意味が分からないよ」
何が“幸せ”で、何が“不幸せ”なの?
このまま、この時間が続けばと願える時間が“幸せ”?
・・・・・・それなら、今が“幸せ”なのかな。
だって、時間が経ってしまったら、沖田さんは労咳で死ぬ。
「そしたら・・・生きてる意味が無くなっちゃう」
華魅は一体、何の、誰の為に生きるというの?
吉田さんだって、もうこの世にいないっていうのに・・・・・・。
「・・・・・・・・・」
懐から藤の簪を取り出して、眺めてみる。
「・・・・・・あれ?」
おかしいな。簪がぼやける。
目を擦っても擦っても、視界がゆらゆらしてる。
「あぁ・・・・・・、これが失恋の痛み・・・?」
初めて好きになった吉田さん。
初めて“また会いたい”と思った吉田さん。
初めて胸が苦しくなった吉田さん。
・・・・・・初恋は実らないって、苦しい言葉ですね。
だって、初めてだからこんなに苦しいのに、報われないなんて。
「華魅は、吉田さんのことを忘れないですからね」
つぅ、と頬を温かいものが伝った。
ねぇ、吉田さん。
神と一緒に見届けてください。
華魅が、“幸せ”になれるかどうか・・・・・・。
なれなかったら、慰めてくださいね。
そしてそれから・・・・・・、今度は同じ時代に生まれてください。
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