其之六

20/20
1497人が本棚に入れています
本棚に追加
/324ページ
華魅は家族という家族を、実は知らないのかもしれない。 優しかった両親は白昼夢で、神と華魅は交互に生きてる。 「・・・・・・ねぇ、神。お姉ちゃん、“幸せ”の意味が分からないよ」 何が“幸せ”で、何が“不幸せ”なの? このまま、この時間が続けばと願える時間が“幸せ”? ・・・・・・それなら、今が“幸せ”なのかな。 だって、時間が経ってしまったら、沖田さんは労咳で死ぬ。 「そしたら・・・生きてる意味が無くなっちゃう」 華魅は一体、何の、誰の為に生きるというの? 吉田さんだって、もうこの世にいないっていうのに・・・・・・。 「・・・・・・・・・」 懐から藤の簪を取り出して、眺めてみる。 「・・・・・・あれ?」 おかしいな。簪がぼやける。 目を擦っても擦っても、視界がゆらゆらしてる。 「あぁ・・・・・・、これが失恋の痛み・・・?」 初めて好きになった吉田さん。 初めて“また会いたい”と思った吉田さん。 初めて胸が苦しくなった吉田さん。 ・・・・・・初恋は実らないって、苦しい言葉ですね。 だって、初めてだからこんなに苦しいのに、報われないなんて。 「華魅は、吉田さんのことを忘れないですからね」 つぅ、と頬を温かいものが伝った。 ねぇ、吉田さん。 神と一緒に見届けてください。 華魅が、“幸せ”になれるかどうか・・・・・・。 なれなかったら、慰めてくださいね。 そしてそれから・・・・・・、今度は同じ時代に生まれてください。
/324ページ

最初のコメントを投稿しよう!