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これが白の宮殿?」
白の大理石と月長石で造られた宮殿が少年たちの目の前に姿を現した。
建物自体は装飾は何もない。しかし青い月の光を浴びて、まるで青紫のベールをまとっているような美しさだ。
なんて美しいのだろう。諸外国の華美な装飾に彩られた宮殿が色あせて思えてくる。
『お入りにならないのですか?』
しばらく宮殿を眺めていた少年の頭上に、ふいに声ならぬ声がふってきた。
「え?」
慌てて声のようなものがした方向に顔をむけると、そこには小さな鳥が羽ばたきながら空に浮いていた。
ただ…その体は透き通り、羽ばたきの音が聞こえない。
『お入りにならないのかと聞いているのですが、その耳は伊達についているだけですか?』
人間でいうなら眉をひそめたような表情で、嫌みを含めて鳥はもう一度、少年に問いかけた。
その声は・・・声と言っていいのかどうかわからないが、空気を振動させて発しているような声である。
風の具合で多重音に聞こえてくる不思議な声。
「若君は見るもの聞くもの不思議でしかたがないんだ。大目に見てやってくれ、アルジギード」
後ろに控えていた男が鳥に向かって呼びかけた。
『こちらも暇ではないのでね。サッサとしてほしいんだよ。ギル、入り口はこちらだ』
お互いの名前を呼びあっている様子に少年は驚いて男を見た。
「ギル、お前、あの鳥を知っているのか?しかし白の宮殿にくるのはお前も初めてのはず…」
「さあ、若君参りましょう。ぐずぐずしていると姫様とお会いできる時間も少なくなってしまいますぞ」
その問いには答えず男…ギルは鳥…アルジギードの示した場所に少年の背中を押した。
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