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一人、彼は静けさの広がる住宅街を歩いていた。
見ようによっては寝癖にもワックスを付けて自由な髪形にしているようにも感じられる彼は、ふと目についた公園に足を動かした。
それはちょっとした広場と一緒になった少し広めの公園だった。彼が踏み込んだのは広場のほうで、奥の遊び場へと続く道以外の三方にそれぞれ一つずつベンチがあった。遊び場から一番近く、自分が入ってきたすぐ場所のベンチに彼は倒れるように座り込んだ。
「はぁ……」
胸元のポケットから携帯についている十字架のキーホルダーを見つめる。それは彼の「お守り」であった。ソレをじっと見つめて鼻で嗤うとポケットにしまう。月に照らされて、中心の天然石が輝いていた。
「何の為のお守り、だよ」
彼は虚空を睨みながらそう毒づいた。いや、正確には広場にいる実体なき人間たちを。
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