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5時限目のチャイムが響いた。
それを無視し、一定のリズムで階段を登る。
屋上へのドアには当然鍵がかかっていて、気にせず俺は無表情のまま、爪でカチカチとノックした。
しばらく立ち尽くす。
カチャリ、と軽い音がしてドアが開く。
目の前には眠そうな顔をした優菜(ゆうな)がいた。
「帰って来ないから、絶対ここだと思った。俺もサボリ」
そう言うと彼女はニヤリと笑い、
「智(さとる)も大分、ワルになったね」
と言って踵を返し、再び屋上の真ん中辺りに寝そべった。
仰向けになって、目を閉じている。
俺は鍵をかけ直し、何も言わず隣に座る。
ギリギリ身体が触れない距離。
10月、今日も秋晴れで逆にウンザリしてくるほど空が青い。
少ない綿雲がほろほろと変形し、流れていく様をボーッと見つめる。
「ねえ」
服の裾を引っ張りながら優菜が俺を呼ぶ。
「何」
と言って顔を向けると、目を閉じて待っていた。
俺はまた、何も言わずに口づける。
そうして決まりきった習慣のように、彼女のボタンを外し始めた。
こんな時、荒く息をつきながらも、何処か冷めた頭はいつだって朋宏(ともひろ)のことを考えている。
俺と優菜の幼なじみ。
4ヶ月前に突然死んだ、優菜の彼氏。
今、目の前で揺れながら泣いている彼女は、朋宏が死んだことでは1度も泣かなかった。
そんなことを思い出して勝手に苛つく俺は、最低だと思いながらも彼女を優しく抱けない。
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