ハヤブサ

2/5
前へ
/5ページ
次へ
5時限目のチャイムが響いた。 それを無視し、一定のリズムで階段を登る。 屋上へのドアには当然鍵がかかっていて、気にせず俺は無表情のまま、爪でカチカチとノックした。 しばらく立ち尽くす。 カチャリ、と軽い音がしてドアが開く。 目の前には眠そうな顔をした優菜(ゆうな)がいた。 「帰って来ないから、絶対ここだと思った。俺もサボリ」 そう言うと彼女はニヤリと笑い、 「智(さとる)も大分、ワルになったね」 と言って踵を返し、再び屋上の真ん中辺りに寝そべった。 仰向けになって、目を閉じている。 俺は鍵をかけ直し、何も言わず隣に座る。 ギリギリ身体が触れない距離。 10月、今日も秋晴れで逆にウンザリしてくるほど空が青い。 少ない綿雲がほろほろと変形し、流れていく様をボーッと見つめる。 「ねえ」 服の裾を引っ張りながら優菜が俺を呼ぶ。 「何」 と言って顔を向けると、目を閉じて待っていた。 俺はまた、何も言わずに口づける。 そうして決まりきった習慣のように、彼女のボタンを外し始めた。 こんな時、荒く息をつきながらも、何処か冷めた頭はいつだって朋宏(ともひろ)のことを考えている。 俺と優菜の幼なじみ。 4ヶ月前に突然死んだ、優菜の彼氏。 今、目の前で揺れながら泣いている彼女は、朋宏が死んだことでは1度も泣かなかった。 そんなことを思い出して勝手に苛つく俺は、最低だと思いながらも彼女を優しく抱けない。
/5ページ

最初のコメントを投稿しよう!

6人が本棚に入れています
本棚に追加