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6月の雨が降りしきる夜、よくあるスリップ事故だった。
俺と別れて1時間後、優菜と別れてたった10分後には、朋宏は死んでた。
「なあ、そのアザ何?」
息が落ち着いてから、俺は優菜の右腕にあるアザについて尋ねた。
彼女は俺の顔を見つめながら
「打った」
とだけ言った。
「そう」
と言って視線を顔から外し、ボタンをとめてやる俺を、彼女はずっと見つめていた。
朋宏が死んで1週間経った頃、いきなり優菜は俺に抱けと言った。
持て余していた12年の恋心と、健全な17歳男子の欲望を抱えた俺に断る理由なんて無かった。
ただ、驚いたのは優菜が初めてだったことだ。
痛いかと尋ねても首を振り、静かに泣く優菜が哀れで仕方なかった。
初めての相手が好きでもない奴だとか。
1年付き合って、朋宏は何してたんだと思った。
だけど俺はあの時確かに、暗い優越感に浸っていた。優菜を想い、想われた朋宏に対する醜い優越感。
そしてそんな俺を心底軽蔑する自分。
喜びと憤りがドロドロに混じり合って、吐きそうな気分だった。
あの日から俺と付き合っているように振る舞う優菜に対し、俺を好きだという女が嫌がらせをしていることに気付いていた。
エスカレートしたそれは、最近遂に暴力に達したらしい。
だけどそれを隠す、少なくとも隠そうとしてみせる優菜を俺は求めている。
その時だけ俺は、彼女を優しく想える。
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