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ざっくりと、胸を抉るように、ナイフが突き刺さったように、一気に血の気が引いた。あのワンピースを着て来た。ということは、いいよ。ということだと思っていた分、衝撃が大きかった。一瞬、全てが分からなくなった。ああ、振られたのか。そう思った時、涙が、込み上げてきそうになった。
「ボクは、村西 明正のことが大好きだよ。世界で一番? ボクは、宇宙で一番好き。だから、ごめんね、ボクの気持ちは、明正の思いより大きいよ」
一瞬、悲しみで俺の頬を涙が伝う。しかし、次の言葉で違った意味での涙が頬を伝った。暖かくて、くすぐったい涙だった。
「……ごめんって」
「ごめんね、明正がボクを好きな気持ちより、ボクの方が明正のこと、大好きだよ。って、言おうと思ったんだけど、ご、ごめんって言ったときに恥ずかしさで、言葉、でなくなっちゃった」
へなへなと、立っていることが出来なくなったのか、穣はその場に崩れ落ちた。緊張が解けたのだろう。
思いが、届いたのかな。そう思うことしかできなかった。そして、俺たちは、少しだけ、ちょっとだけ、キスをした。
「ん……。あ、あはは。て、手がふるえちゃってるよ、ボク」
「……俺だって」
お互いの、震え合う手を握りしめ、二人は、
「……明正」
「……穣」
「……お腹空いたからご飯。昨日ボクが勝ったから明正が食事当番だよね!」
「あ、おま、いい雰囲気でそれはないだろ! でも、まぁ、いいか!」
俺は穣を立ちあがらせると家の中へ招き入れた。いつもと変わらない光景の中で変わったのは、俺と穣の関係だけだった。さて、今日は何処へ出かけようか。勿論、デートにね。
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