退屈の理由

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退屈の理由

高校に入ってから数週間が過ぎていった いつも通りの授業は誠にとって、退屈な時間 四月の後半には殆どの新入生が部活を決めていた 帰り道 誠がユリに話しかけた 「ユリ、部活決めた?」 「あたしは、いいや」 笑って答えるユリに不思議そうに聞いた 「なんで?部活やんないの?」 「うん。・・・うち、お父さんいないでしょ?だからお母さん結構苦労してるの」 ユリの父親は、ユリが産まれてすぐに病気で他界した 「お母さんの手伝いとかしたいし、最近調子悪いみたいで、今日病院行ってるの」 うつむき加減なユリ 「静流さんなら大丈夫だよ。美人だから」 そう言ってユリの肩を軽く叩いた 「うん、ありがと」 ユリは誠の不器用な優しさが好きだ 「誠は決めたの?部活?」 「オレはどこも入らないよ」 「ふーん、空手は?」 「辞めた」 無愛想に答えた誠 聞きづらい質問を誠にぶつける 「あのさ、辞めた理由って、まだ聞いてないんだけど・・・」 「・・・」 誠の冷たい視線がユリに向けられた 「・・・(ヤバッ、怒ってる?)」 「もともと好きで始めたんじゃねーから」 「・・・えっ?あっ!(よかった、怒ってなかった)」 ホッとするユリ 「オレが空手やってると周りがうるさいんだ。 洋介の息子だとか血統だとか だから辞めた」 父親の話をするだけで誠の心には憎しみが広がる 気まずい空気を振り払うようにユリが慌てて言った 「ゴメン!変なこと聞いちゃったね、アハハ」 誠の耳には届かなかった 「ガキの頃から空手やらせて、動きがのろいだ、弱いだ、なんだって、好き勝手やって・・・失踪だよ!」 誠の顔が憎しみに歪む ユリはそれが嫌でしょうがない 「そのせいで母さんは死んだ、全部あいつのせいだ!」 誠の握った拳が震えている 「ごめん!」 震えた拳をユリの両手が包む 「・・・ごめん、嫌なこと、聞いちゃった」 「・・・ワリィ、変な事言ったな」 ユリが見つめた誠の顔は、いつもの優しい笑顔に戻っていた
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