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いつもなら待ち合わせ時間にはギリギリで姿を見せる純一も、今日ばかりはことりに引っ張られて、集合10分前にはさくらパークの正面ゲートに来ていた。
「ほら、朝倉くん、しゃきっとして。もうすぐともちゃんたちが来ますよ」
今日のイベントのプロデューサー兼指南役のことりが、だらしなくあくびをする純一にチェックを入れる。
「もう一度スケジュールを確認するね。午前中は自由行動、お昼は4人で一緒にレストランコーナー。午後は室内プール……いいですね?」
本来ならもっときっちりとしたスケジュールも考えていたふたりだが、それではかえってともちゃんを緊張させてしまうのではないかということで、細かなことはその場その場で臨機応変に決めようということになった。
このデート実地訓練の目的はあくまで、ともちゃんに実際に男の人とのデートを体験してもらうこと。恋人と一緒にいる時間のステキさを体験することで、あの男性に告白する勇気をもってもらおうという算段だ。
「でも、ことり。本当にいいのか?」
純一が確認の意味を含めて、もう一度ことりに問いかける。
「特訓……真似事とはいえ、その、ことりの前で他の女の子とデートするってのは……」
「大丈夫です。朝倉くんのことを信じてるから、こんなお願いできるんです」
屈託ない笑顔のことりを見て、純一は自分の考えすぎを反省した。
「ことり、朝倉くん―っ」
「お、お待たせ……」
待ち合わせの場所にみっくんとともちゃんがやってきた。ふたりとももちろん私服で、いつもよりずっと華やかな雰囲気がある。
「ともちゃん、今日はよろしく」
純一が今日のデート相手のともちゃんに挨拶をすると、
「そ、それは私のセリフ……こ、こちらこそ、よろしくお願いします……!」
ともちゃんは緊張の面もちで挨拶を返してきた。
「ほらほら、始まる前からそんな緊張しちゃダメだって、ともちゃん」
「そうそう。そんなこわばった表情じゃ、とてもこれからデートするように見えないよ」
ふたりに促され、なんとか微笑もうとするともちゃんだが、やはりどこかぎこちない。
「じゃあ、早速出発です!」
ことりを先頭に4人は入場ゲートからさくらパークの中へと入っていった。
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