165人が本棚に入れています
本棚に追加
「ぐはっ…」
「…うっ!」
開いた口が塞がらない、とはこの事を言うのだろうか。
「コノヤロ…!ぐはっ…」
そこには、次々と襲い掛かってくる不良達をいとも簡単に避け、腹にパンチを食らわしている緒方くんの姿があった。
「あ…目開けちゃダメって言ったのに」
俺が見ていること気付いたのか、こちらを振り返り困ったようにそう言った。
「おらぁ…!」
その声に後ろを振り返ると、俺の背後から誰かが鉄パイプを振り下ろそうとしていた。
やられる…っ!
そう思い目をつぶる。
─バキッ
「ぐはっ…!」
…あれ、痛くない…
ゆっくりと目を開けると、襲い掛かってきた奴は地面に倒れていて、俺の前には…緒方くんの姿があった。
「お前等の相手は…俺だっつったろ?」
さっきのが最後の一人だったのか全員地面に倒れている。
俺、完全にフリーズしてます。
今だに理解しきれていない状況に俺はただ固まっていた。
「…大丈夫?」
そう言って微笑む彼を見て、一気に力が抜けその場に座り込んでしまった。
「さ、真田くん!?どっか怪我でもした!?」
俺が急に座り込んだからか、心配そうに俺を覗き込む緒方くん。
「や、大丈夫…」
ガタガタと手が震えている。
今になって、さっきまでの恐怖がよみがえってくる。
「…どしたの?どっか痛い?」
「ちが…ちがくて…っ」
緒方くんがスッと俺の目元を拭うのを見て、ああ…俺泣いてんのか、って思った。
俺、情けねぇ…
泣き顔を見られたくなくて俯いてると、急にふわっと抱き締められた。
「…っ!おがたく…!?」
「もう大丈夫、…怖い思いさせちゃってごめんね?」
そう言って背中を優しく擦ってくれる緒方くんの手が、やけにあったかく感じて…次々と流れ出てくる涙を止めることができなかった。
「ヒック…ごめ、元はと言えば俺のせいで…っ」
「真田くんのせいじゃないよ。
…俺が勝手にムカついただけ」
「…へ?」
「うんん、何でもない」
嗚咽でうまく喋れないけど…これだけは言いたい。
「っ…ありがと、緒方く…ヒック」
ほんとに、俺一人だったら死んでたかも
「ふふっ、どういたしまして」
その後、俺が泣き止むまでずっと背中を擦ってくれていた。
最初のコメントを投稿しよう!