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 孝哉は自分の体験を文章にし、それを飯の種にしている、その日暮らしの売れない作家だった。だが、ナツという女性を嫁に貰ってからはその文章が飛ぶように売れだした。ナツのためか明るい文章を書くようになってより、広い年齢層に好んで読まれるようになったのだ。また、未熟で不完全な文体も「不思議で好き」と人気を博した。  ナツとなら幸せになれようと思っていたある日、ナツが急逝する。得体の知れぬ病にかかって、ひと月の闘病を経たのち、ナツは静かに逝った。  ナツの闘病生活を文章にしたのを最後に、再びその日暮らしの身に落ちた孝哉は自殺をするほどの絶望を味わうこともなく、しかし文章にさえ起こせない喪失感と虚無感に身悶えながら、寿命を消費していた。image=319720136.jpg
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