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神社の奥にある林道を進んで行くと、先程佐々木さんが言っていた湖に到着した。
湖は思ったより広く、水がとても澄んでいて美しい。
「いゃ~、まさかこの島でこんな綺麗なものが見られるとは思わなかった…なぁ依子。」
「はぃ、先程の建物などは刺激が強かったですから…丁度良いですわね。」
宮脇夫妻が湖のほとりで話していた。相変わらず仲がいいな…晴夫さんと依子さん。
僕は千夏の姿を確認すると、早足で近付いていく。
千夏は湖をずっと見ていた。僕には気付いていないようだ。
「ち~な~つ~?」
「え…?あ!!ユウ!!どうしたの?」
「どうしたのじゃないよ、ひどいなぁ…置いてくなんて。ショックだったなぁ~…スゲー凹んだし…」
僕は千夏に意地悪をしてみる。
「あ…ご、ごめんなさい!!」
千夏は焦っているみたいだ。あまり意地悪すると可哀相かな。
「な~んてね!!ははっ…冗談冗談♪」
「も~!!ひどいよ!!」
「ごめんごめん!!……お爺さんのこと考えてたんだろ?」
「…うん。」
千夏は再び澄んだ水面を見つめながら話を続けた。
「昔…よくお爺ちゃんが連れて来てくれたの、ここに」
「千夏のお爺さんって…どんな人?」
「お爺ちゃん?お爺ちゃんは…物知りで、暖かくて、怒ると怖いけど…普段はとっても優しくて…」
「大好きだったんだね…お爺さんのこと。」
「うん、髪は薄かったけどね。」
千夏は無邪気に笑っている。その純粋無垢な笑顔につられて僕も笑顔になっていた。
「え~、お取り込み中すぃませ~ん。」
「き、桐島さん!?」
振り向くと桐島さんが荷物を抱えて立っていた。
「突然後ろから話しかけないでくださいよ!!びっくりするじゃないですか!!」
「いゃ、なんかラブラブオーラが出てたもんだから…」
「からかわないでください!!それで、要件は何ですか?」
「まぁそんなに照れるなって、この先に小屋があるらしいんだけどよ…ユーイチも行かねぇか?」
小屋か…何か新しい情報が入手できるかもしれないな。
「じゃあ…行きます。千夏は?どうする?」
「私…もう少しここにいる、ゴメンね。」
「気にするなって、じゃあ行ってくるよ。」
千夏と別れ、僕と桐島さんは小屋に向かう。
『蟲』について何かわかればいいんだけど…
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