第一章 「透けて視える男」

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「マジかよ?」 驚きのあまり多少声が裏返っちまった俺。 だってそうだろ?目を塞(フサ)いでた包帯を取ったら、目の前に下着姿の女が居るんだぜ? 誰だって驚くさ。 「いかがですか目のほうは?見えていますか?」 だけど驚く俺をよそに、女はチャーミングな笑顔を浮かべて、取り外した包帯を片付けていく。 うん。この女、慣れてるな。いろいろと。 「ああ、良く見えるよ。見えすぎて困るぐらいだ。」 そう言って俺は椅子から立ち上がり、女の肩へ手を伸ばした。 目の前でこれだけ挑発されてるんだ、据え膳喰わぬはなんとやらだろ? 「ちょっと、何するんですか。やめて下さい。」 だが以外にも女は俺の手を払いのけ、不快感を露わに俺を睨みつけた。 ん?何だ?お触りはダメなのか? 「いいですか、佐久間さん。レーシックは簡単な手術とは言え、それなりに体に負担がかかるんです。しばらくは安静にしといてくださいね。」 くびれたウエストラインに目をやりながら、俺は下着姿の女の話を片耳で聞き、椅子に座り直す。 どうやらお説教されてるらしいが、その口振りから俺はあることに気がついた。 「あんた…ナースなのか?」 この俺の質問は相当とぼけたものだったのだろう。 あからさまに呆れた様子で、下着姿のナースがため息をつく。 「当たり前でしょ。この姿見て、わかりません?」 いや、その姿を見たから分からないんだが… 「もしかして…良く見えてないんですか…?」 はっとした表情を浮かべると、急に心配そうに俺の顔を覗き込む下着姿のナース。 うん。このアングル。谷間が素晴らしい。 「先生ー。先生ー。すみません。ちょっと来て頂けませんか?」 突然俺の前から谷間が消え去り、下着のナースは部屋から小走りに出て行った。 おそらく担当の医師を呼びに行ったんだろう。 パタパタと急ぐスリッパの音が響く。 「しかし、何だったんだ?今の女は?」 この二階堂総合病院、サービスが良いとは聞いてたが、ナースが下着姿で患者の世話するなんて、サービス良すぎるだろ? それにしてもこの部屋。 病室と言うにはあまりにも殺風景過ぎるな。 俺が座ってる椅子以外、部屋の中には何も無いじゃないか。 少なくとも診察台くらい置いとけよ。 それにこの椅子も何だか座り心地悪いし。 そう思って俺は、何気なく下を見た。 あれ?おかしいな。俺、宙に浮いてるじゃん?
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